医道2009年2月号掲載事例

はじめに

全身の体質を改善するため、当院ではすべての治療に対して中医学弁証論治を採用している。本稿では抜け毛・薄毛に対する鍼灸治療による増毛効果について、中医学弁証論治に基づいた全身調整の有効性を述べ、また治療による改善度について調べたアンケート調査を報告する。

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増毛治療の考え方

増毛コース施術を開始し約1年になる。今般抜け毛・薄毛は一部の人の悩みではなく、男女・年齢を問わず幅広い層で悩みを抱えておられる方が多く、雑誌でも特集記事をくみ頻繁に取り上げられている。

当院では、増毛コースを一般に打ちだす前段階として全身治療で通われている患者さんに約半年間増毛モニターとして施術を行い、鍼灸治療による増毛についての効果を確認するため、あえて食事療法などは行わず、今までと変わりない日常生活を送っていただき、週1回の全身治療に増毛施術を加えた治療を行った。

施術開始3か月目より目を見張る効果が表れ、患者さん本人も半年後には抜け毛・薄毛を気にする事もなくなった。増毛にたいする鍼灸治療について確かな手ごたえを確信し、増毛コースを打ち出すにいたった。

鍼灸は増毛治療になぜ効果があるのか?

1)脱毛について
脱毛と一言で言っても、円形脱毛、分け目はげ(脱毛)、壮年性脱毛、蛇行性脱毛、全体性脱毛等に分類される。抜け毛が多い、全体の毛髪量が少なくなる等も脱毛症の一つと考えられている。
2)どのようにして抜け毛・脱毛は起こるか
過剰なストレスがあると血圧が上昇して顔が紅くなるように、気血は上昇して下降せず、首から上に熱の症状(顔が紅く、目が充血する等)が見られる。熱があれば水が蒸発するように、血も熱によって蒸発して潤いがなくなる。水分や栄養分である血が減ると当然髪は栄養されず、急に抜け落ちていく。また、気血が全身的に不足している疲労体質の方は、全身が栄養されず、疲労感が常にあるように髪も栄養されず、枯れ落ちていく。

抜け毛・薄毛・増毛の鍼灸アプローチ

抜け毛・薄毛・増毛の鍼灸アプローチ法として、当院では全身治療として中医学弁証論治を採用している。併せて頭部局所の治療として、頭部に合計18本を約8分置鍼している。症状のタイプによって異なるが、灸、梅花鍼を併用している。これらは未だ弁証別にまとめて報告できるデータが集積されていないため、改めてご報告するとして、今回は症状タイプ別にどのような全身治療を施したかを述べたい。

鍼は実証タイプには1寸1番鍼。虚証タイプには0番鍼を用いた。刺鍼方法として、頭部は横刺とした。全身は個人の弁証や、その日の体調により異なる。刺鍼深度は、中医学弁証配穴を採用しているため、同じ経穴においても様々である。例えば切皮だけの患者様もおられる。但し、すべてのタイプにおいて迎髄、ひびきを共通して採用した。

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中医学弁証論治による全身調整

当院では、すべての治療に対し中医学弁証論治を採用し、増毛の場合も、中医四診法(望診・聞診・問診・切診)を初診時に詳しく行い、薄毛・抜け毛のタイプを大きく4つに分類し、治療方針を立案する。

血熱タイプ

原因

ストレスから身体に熱がこもり、血熱となる。血熱は熱の炎上性の性質より上逆し、首から上に血熱の症状が出る(目の充血、鼻出血、口渇、顔面紅潮、ニキビ等)。頭部にも血熱が溜まり、水分が不足すると、草花が枯れるように毛髪も抜け落ち脱毛となる。

症状
  1. 突然の部分的脱毛
  2. 頭皮の萎縮・光沢・痒み
  3. 目が充血しやすい
  4. 鼻血や不正出血等の出血症状
  5. 口が渇く
  6. 便秘(硬く乾燥)
  7. イライラしやすい
治療
全身
清熱涼血
基本配穴
曲池、合谷、内庭(清熱瀉火)、心兪、膈兪、三陰交(涼血化瘀)、天枢、上巨虚(瀉熱痛便)、次髎、膀胱兪、中極(清熱利尿)身体の中の熱を冷まし、熱により消耗した血を補う治療をする。頭部は溜まった血熱を取り去り、リラックスできる治療により脱毛を改善していく。

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気血両虚タイプ

原因

食欲がない為に、外から栄養を取る事ができず、新しい血が生成されず全身血が不足している為に、頭皮毛髪も栄養されない。日光に当たらない草花が細く、弱いように毛髪も細く弱く慢性的に脱毛が起こりやすくなる。

症状
  1. 慢性的脱毛
  2. 毛髪細く、頭皮の色がくすんでいる
  3. 顔色に艶がない(くすんでいる)
  4. 少し動くと息切れや動悸がする
  5. 食欲なく少し食べると腹が張る
  6. 不眠(熟睡感なく朝しんどい)
  7. 疲れやすい
治療
全身
補気養血
基本配穴
神門、心兪(養心安神)、足三里、脾兪(健脾益気・補気生血)、合谷、膈兪、三陰交(気血双補)脾胃の動きを活発化して食欲を向上させその栄養分から血を養っていく治療をする。頭部は生成された血が十分に巡るように治療し脱毛を改善していく。

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瘀血タイプ

原因

瘀血とは血の動きが止まってしまい、古い血が溜まりやすくなっている状態である。瘀血が発生する原因は様々である。例えば(血虚・気虚・気滞・血寒血熱)頭部に瘀血があれば、養分は水のない土地(砂漠)に草花が枯れて育たないように、毛髪も育たず脱毛となる。

症状
  1. 持続的・部分的・全体的脱毛
  2. 脱毛部の皮膚の色が浅黒く、乾燥
  3. 顔色がどす黒い
  4. 皮膚乾燥しやすい
  5. 頭痛(刺すような痛み)
  6. 舌が紫・瘀点・瘀斑(黒い点やしみ)がある
  7. 爪の色が青紫色・黒色
治療
全身
活血化瘀
基本配穴
心兪、膈兪、血海、三陰交(活血化瘀)瘀血の原因(血虚、気虚、気滞など)となる体質部分の治療と、血の流れを活発にして瘀血を除く治療をする。頭部でも血の流れを活発にし、瘀血が溜まりにくくなる体質に改善し、抜け毛を増毛へと導く。

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肝腎陰虚タイプ

原因

陰虚とは、簡単にいうと身体の中の水分(津液)が不足した状態である。慢性的なストレスや疲労が原因となる。肝腎の陰虚は肝血(血)、腎精(血の中の栄養分)が不足してる。養分や水の足りない草花が育たないように、毛髪も抜け落ちていく。

症状
  1. 慢性的脱毛(徐々に進行)
  2. 頭頂部や両額角(徐々に進行)
  3. 毛髪柔らかく細い
  4. 頭皮に痒みがり、油脂多い
  5. 腰がだるい
  6. 手のひら、足底赤くほてりやすい
  7. 耳鳴り(蝉の声)
治療
全身
滋陰益精
基本配穴
太谿、腎兪、太衡(滋補肝腎)、肝兪、膈兪、三陰交(養血生髪)肝腎の血と精を補う治療をし、髪を栄養できるようにする。頭部ではリラックスして血流を改善する治療により、脱毛を改善していく。

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増毛治療の効果 患者1

患者

45歳、医師

治療期間

X年1月~6月

患者の弁証

血熱(痰濁体質にアルコールやストレスが影響して血熱となる)

主症状

X-1年秋より急に抜け毛が増えた。

随伴症状

目の充血、目の出血、目痛、高血圧、頻脈、背中及び頭面部の湿疹と痒み。舌:絳、苔:黄膩、脈:滑数。

治療

清熱利湿、健脾燥湿

配穴

全身
行間、丘墟+陰陵泉、三陰交(清熱利湿、清熱涼血)。曲池、合谷、内庭(清熱瀉火)。足三里、脾兪(健脾燥湿)
局所
前頭部・頭頂部~後頭部にそれぞれ9本を8分間置鍼。

経過

後頭部
後頭部
頭頂部
頭頂部
前頭部
前頭部

治療後のコメント

職場で「若返った。」と言われているとのこと。現在も月2回ペースで治療を継続し、頭髪は維持されている。

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増毛治療の効果 患者2

患者

41歳、会社員

治療期間

X年12月15日~X+1年10月24日

患者の弁証

瘀血(飲食の不摂生により、痰濁が発生し、末梢で血虚兼血瘀となる)

主症状

徐々に、頭頂部、額角部の脱毛・切れ毛が増えた。特に頭頂部の脱毛・切れ毛が顕著であり、範囲も広範囲にわたっている。また、脱毛部の頭皮の色は浅黒く、艶が無い。

随伴症状

手足が冷える。爪や唇の色艶が悪い。皮膚が乾燥する。五心煩熱。こむら返りがよくある。坐骨神経痛、腰痛、肩こり(喜按・筋ばる)舌:紫、瘀斑、苔:舌根やや黄膩、舌中薄白、脈:沈、細数。

配穴

全身
化痰降渇、中脘、内関、豊隆、陰陵泉、健脾燥湿、足三里、脾兪、活血化瘀、心兪、脾兪、血海、三陰交
局所
前頭部・頭頂部~後頭部にそれぞれ9本を8分間置鍼。

経過

後頭部
後頭部
頭頂部
頭頂部
前頭部
前頭部

コメント

初めの10回で頭頂部にボリュームが出て来た。周囲から「毛が増えた。」と言われる。今では、後ろで束ねた髪をカットしてミドルヘアで過ごしている。随伴症状も改善されている。

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増毛治療の効果 患者3

患者年齢

46歳、医師

治療期間

X年9月15日~X+1年10月29日

患者の弁証

肝腎陰虚+気滞

主症状

数年かけて徐々に額角、頭頂~後頭に脱毛、切れ毛、毛が細い。アレルギーの為か時々頭皮が痒い。頭頂~後頭には毛根があるが、毛が細くなり切れている。

随伴症状

平成19年夏よりアレルギー性の湿疹。薬を服用するが効かず、湿疹部位は乾燥している。(全身性、この時から頭皮も痒い。)左前腕にベッカー母斑もある。眼精疲労、老眼、胸が苦しい時がある。舌:活尖紅、苔:やや黄、脈:細数、弦。

治療

滋陰益精

配穴

全身
太谿、腎兪、太衡(滋補肝腎)、肝兪 膈兪、三陰交(養血生髪)、陽稜泉、外関、丘墟(疏肝解鬱)。
局所
前頭部・頭頂部~後頭部にそれぞれ9本を8分間置鍼。

経過

後頭部
後頭部
頭頂部
頭頂部
前頭部
前頭部

コメント

幼稚園の娘さんや理容院で毛が増えたと言われている。壮年性脱毛症で、少し時間はかかったが、後頭部から頭頂にかけ徐々に育毛され、今ではその部位の毛をカットする程である。

額角部も脱毛していた部位に毛が出現している。また、ベッカー母斑も徐々に薄くなっている。悩んでいたアレルギー性の湿疹もほとんど消失した。

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施術後における個別評価

増毛コース問診表によって、抜け毛・薄毛が「気になりだした時期」「現在気になる症状」、「どの部分が薄いと感じるか」などを答えてもらった。今回紹介した3人の各項目における個別評価を示す。

患者1及び2については、施術前・施術6ヶ月後(以下施術後)を評価対象とし、患者3については、施術前・施術12ヶ月(以下施術後)を評価対象とした。それぞれ部位別に気になる程度と日常生活を施術前と施術後に11段階(0~10)で評価してもらう方法で、悩み度調査を実施した。

まず気になる症状として、抜け毛・毛が細い・ボリュームがない・フケ・痒みの5項目についての施術前後での個人別比較である。患者1については、モデル像1「毛が細い」「ボリュームがない」「痒み」の3項目が挙げていた。患者2は、施術前「ボリュームがない」を挙げていた。患者3は「毛が細い」「ボリュームがない」の2項目を挙げていた。施術後3人ともに気になる症状が改善され、気になる項目が0となった。

次に気になる部位の施術前後比較をグラフに示す(図1~3)。患者1の施術前及び施術後の気になる部位の評価であるが、頭頂部・前頭部・後頭部が2ポイント改善し、全体評価についても2ポイント改善している。患者2の施術前及び施術後の評価であるが、数値の変わらない部位もみられるが、後頭部では3ポイント改善し、全体評価としては1ポイント改善した。次に患者3についてであるが、側頭部を除き各部位で3もしくは4ポイント改善した。また全体評価についても3ポイント改善した。

  • 患者1の気になる部位図1 患者1の気になる部位(施術前後比較)
  • 患者2の気になる部位図2 患者2の気になる部位(施術前後比較)
  • 患者3の気になる部位図3 患者3の気になる部位(施術前後比較)

次に日常生活に関するアンケートにおいて、ストレス・食事状況・睡眠の3項目についての各個人別評価をグラフに示す(図4~6)。患者1については、3項目とも変化が見られなかった。

聞いたところ、この患者は気になる部位に関する評価をはじめ全体的に評価に示す5が満足した状態、とするご自身の指標によるものということである。患者2は、食生活を改善する意識が芽生え、また、睡眠の項目についても1ポイント改善した。続いて患者3についてである。ストレスは2ポイント改善されたが、食事状況では1ポイント、睡眠睡眠では2ポイント変化した。原因として、仕事が集中し、忙しかった事が挙げられる。

施術後、患者1は「冬場前頭部を触ると、頭皮に指尖の冷たさが直接当たるのを感じていたのが無くなった」、患者2は「後ろが濃くなればなるほど、前の薄さが目につくが、後ろも毛を太くして完全にしたい。また体調も良くなっている」とコメントした。

アンケートに記入頂いたコメントを含め、施術時の会話からも、両者ともに抜け毛・薄毛につい改善傾向にある事を実感しており、また増毛に対する鍼灸施術に対して、前向きな姿勢がうかがえる。

  • 患者1の日常生活図4 患者1の日常生活(施術前後比較)
  • 患者2の日常生活図5 患者2の日常生活(施術前後比較)
  • 患者3の日常生活図6 患者3の日常生活(施術前後比較)

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増毛治療における悩みの改善度(満足度)

当院において2007年9月より2008年7月までの10ヶ月に増毛コースを体験した患者22名(平均年齢33.0歳)、うち男性13人(平均年齢35.5歳)、女性9人(平均年齢29.6歳)に対して、アンケート調査を実施した。その結果、有効回答は15人となった。現段階で10回終了している患者が15人となったためである。その結果、抜け毛・薄毛の悩みに改善が見られたので報告する。

アンケート調査

アンケート調査の項目は、「薄毛・脱毛が気になりだした時期」「現在気になる症状」「どの部分が薄いと感じるか」などであった。アンケート調査方法は、施術前と施術10回終了後(以下施術後)に11段階評価(0~10)で評価してもらい悩み度調査を実施した。「現在気になる症状」については、複数回答可とした。「どの部分が薄いと感じるか」「満足度」「随伴症状」については11段階(0~10)で評価した。

アンケート結果

増毛コース患者の性別構成比は男性59.1%、女性40.9%となっており、本稿の冒頭でも述べたように抜け毛・薄毛・の悩みは男女問わず多いことが示唆される。

次に調査対象者の年齢構成(n=22人)は「25歳以上30歳未満」「30歳以上35歳未満」がともに22.7%と最も多く、合わせて半数近くを占めた。比較的若年層が抜け毛・薄毛に関して関心が高いことがうかがえる。

薄毛・抜け毛が気になり始めた時期(n=22人)については、3年以上前とする患者が53.3%と一番多く、続いて1年以内33.3%、6月以内6.7%であった。

悩み別施術前後比較

気になる症状の施術前後比較図7 気になる症状の施術前後比較(複数回答可)

図7は気になる症状について施術前後での人数の比較をグラフにしたものである。「抜け毛」について施術前後で60.0%が20.0%に、「毛が細い」は46.7%が26.7%に、「ボリュームがない」は53.3%が33.3%に変化し、各項目で大きく改善が見られた。

悩み度調査 施術前後比較

図8は脱毛の悩みを全体及び各部位別に分け施術前後での悩み度をグラフにしたものである。頭頂部、前頭部、後頭部、側等部の各部位ともに治療前と比較し、施術後は悩み度が減少している。また、全体評価について施術前悩み度が7.7であったが施術後6.8と減少しており、増毛施術10回終了時において改善が見られる。

図9は増毛コース10回終了時にいおける満足度をグラフにしたものである。10を大変満足、5を普通、0を不満として表した。0の不満~4までの回答は0であり、大変満足から普通までで100%を占めた。

また、調査対象者について、10回終了後以降引き続き来院されている割合は93.3%と非常に高く、増毛に対する鍼灸施術についてかなり満足した状態だと考えられる。ちなみに調査対象者15人のうち1人のみが2クール目の回数券を購入しなかったが、それは脱毛症が円形脱毛で1クールで治癒したためである。

  • 脱毛の全体及び各部位別悩み度の施術前後比較図8 脱毛の全体及び各部位別悩み度の施術前後比較(平均)
  • 増毛コース10回終了時における満足度図9 増毛コース10回終了時における満足度(%)

随伴症状改善度

当院が考える増毛治療とは、中医学弁証論治による全身の体質を改善することにより発毛・育毛を促すという考え方である。このことから、調査対象者について、抜け毛・薄毛以外にどのような随伴症状があるかについて調べ、施術前後での変化を(0をなしとし10をすごくあるとして)11段階評価で表した。

図10はイライラについて施術前後の比較をグラフにあらわしたものである。施術前5(普通)以上が73%であったが施術後47%と減少し、施術前7%であった0(なし)が施術後13%となり、1から3については施術前13%であったが、施術後33%と2倍以上に増加した。イライラについて施術前後での11段階評価の平均スコアを比較したところ、初回時には5.7あったスコアが施術後3.7となり、2.0ポイント改善された。

図11は不眠について施術前後の比較をグラフにあらわしたものである。施術前5(普通)以上40%だったが、施術後34%と減少した。イライラや不眠等、自律神経系については中医学の得意分野である。全身治療によって気血津液のバランスと循環を改善して、症状の軽減が見られたと考えられる。不眠について施術前後での11段階評価の平均スコアを比較したグラフでは、初回時3.3あったスコアが2.5となり、0.8ポイント改善された。

図12は整形外科疾患である腰痛について施術前後の比較をグラフにあらわしたものである。当院は整形外科疾患を主訴として来院される患者は全体の50%以上を占めている。また、整形外科疾患を項目別にみると肩こり(39%)に続いて腰痛(19%)と悩みの多い部位である。施術前5(普通)以上が40%であったが、施術後は20%と激減している。また0(なし)から3が施術前54%であったのが施術後には74%と増加し、全体としてかなり改善が得られた。腰痛について施術前後での11段階評価の平均スコアを比較したところ、初回時3.9あったスコアが2.3となり、1.6ポイント改善された。

  • 随伴症状―イライラ改善度図10 随伴症状―イライラ改善度
  • 随伴症状―不眠改善度図11 随伴症状―不眠改善度
  • 随伴症状―腰痛改善度図12 随伴症状―腰痛改善度

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考察・結語

抜け毛・薄毛の原因は個人によって千差万別である。

今回アンケート結果から1クール(10回)の施術で(約2か月)で抜け毛・薄毛の悩みに改善が見られた(図8)。

また、2クール目(11回)以降の治療継続率は93.3%と高スコアーであった。抜け毛・薄毛の気になる症状についても大きく改善が見られた。(図7)

当院が採用している中医学弁証論治による全身治療に、増毛治療をプラスすることで抜け毛・薄毛に対する鍼灸の有効性が示唆された。弁証に際して、中医四診法を採用した。

初診時に徹底的に問診をし、その内容から考えられる弁証が正しいかどうかの確認として、望、聞、切診を実施した。今回の対象者では瘀血タイプ、血熱タイプが多かった。これら2つのタイプは早くに効果が得られやすいと感じている。気血両虚、肝腎陰虚タイプについては、徐々に効果が得られている。無効例については、対象人数が15人と少なくはあるが、アンケート結果を見る限りではないと感じている。

今回、脱毛のタイプを4パターンに分類し説明した。しかし、この4つのパターンに至るには、様々な原因が考えられる。今後より多くの症例を蓄積し、各弁証別に治療効果や、悩みの改善度を分析していきたいと考えている。

参考文献
  1. 邸茂良、孔昭遐、邸仙霊編著.中医鍼灸学の治法と処方.東洋学術出版社学術出版社2001
  2. 王富春編著.経穴治病明理.科学技術文献出版社2000.
  3. 天津中医薬大学.後藤学園編著.鍼灸学「経穴篇」.東洋学術出版社1997
  4. 天津中医薬大学.後藤学園編著.鍼灸学「臨床篇」.東洋学術出版社1993
  5. 李世珍.臨床経穴学.東洋学術出版社2001
  6. 神戸中医学研究会.基礎中医学.燎原1995
  7. 内山 恵子.中医診断学ノート.東洋学術出版社1999