喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患は、中医弁証論治による個人に対応した鍼灸治療により、症状が改善することを臨床上実感している。
鈴木らは1)、副腎皮質ステロイド薬を含む薬物療法においてもコントロール不良であった気管支喘息患者6例に対して、鍼灸治療を行った。その結果、鍼灸治療期間に応じて、全症例で喘息発作の軽減または消失効果を得ている。さらに、鍼灸治療期間終了時では、喘息発作の改善に伴い、呼吸機能の改善と好酸球の低下が認められ、6例中4例でステロイド薬の減量が可能となったことで、患者の喘息発作、自覚症状、呼吸機能の改善に有効であったと報告している。
今回は、喘息に対する鍼灸治療として、読者の先生方が、鍼灸の適不適の鑑別・診断・配穴(本治・標治)治療・患者様の説明等について再現・追試できるように構成した。明日からの臨床の参考にいただけたら幸いである。
★この「炎症性」とは、発作時のみでなく、非発作時にもある程度の炎症が続いているということである。そこで、治療には抗炎症薬を持続的に使用する。
★「可逆性」とは、1秒量が気管支拡張薬などにより、発作時に比べ20%以上改善することである。
★種々の刺激に対して、敏感に気道反応が亢進することである。
★気道組織の質的変化・改築(リモデリング)を伴うと、慢性重症例が多くなる。小児より成人喘息に多い。免疫反応として、小児はアレルゲンを主とするIgE抗体の反応による。成人は、リンパ球依存型によるアレルギー反応の割合が高くなる。
★抗ヒスタミン薬は喀痰が止まるための禁忌である。
喘息は、東洋医学では「哮喘」と称されている。「哮」は発作性の喘鳴を伴う呼吸困難、「喘」は呼吸促伯するが、喘鳴を伴わないものを意味する。哮と喘は同時に見られることが多い。
哮喘の原因は、身体のどこかに痰飲が潜伏している。この状態を「伏飲」と称す。伏飲を有する人に、気機の昇降・出入失調が起こると、症状が出現する。3)つまり、伏飲が支飲となって出現した時、気道が狭窄して気機の失調となる。
哮喘は虚証と実証に分類される。虚証は、気虚がベースにある。気の推動力低下により、気機失調となりやすいためである。実証は外邪(風邪)によるものである。哮喘の症状は、虚証であっても実の症状である。
弁償 | 原因 | 症状 | |
---|---|---|---|
実証 | 風寒 | 伏飲+風寒邪 | 急に発病、悪寒>発熱、鼻水(水様)、痰は透明、舌苔薄白、脈浮緊 |
痰熱 | 伏飲+風熱邪 | 呼吸促迫、呼吸粗い、痰は黄色粘稠、悪寒<発熱、咽頭痛、口渇、顔面紅潮、舌苔黄膩、脈浮滑数 | |
虚証 | 脾気虚 | 脾気虚⇒痰湿留る 伏飲+痰湿 ★身体の余分な水が最も多い |
疲れると喘息、痰が多い、経過が長い、納少、納保、便溏or便秘、夕方むくみやすい、舌淡、脈虚弱滑 |
肺気虚 | 伏飲+肺気虚 ★肺の宣発・粛降機能低下による |
疲れると喘息、咳は無力、痰は透明、経過が長い、短息、瀨言、自汗、風邪引きやすい、舌淡、脈虚弱 | |
腎気虚 | 伏飲+腎気虚 ★腎の納気低下により、肺の宣発・粛降も機能低下する |
呼多吸少、痰は透明で少ない、経過長い、寒がり、腰膝酸痛、舌淡、脈沈虚弱 |
当院では、全ての治療に中医弁証論治による配穴を用いた治療を実施している。また、症状に合わせて標治のパターンを決めて、同じ症状の人に体質別に共通配穴を用いている。即ち、『中医弁証論治による本治』と『症状別共通の標治』を施している。
中医弁証論治による喘息のタイプを、『風寒、痰熱、脾気虚、肺気虚、腎気虚』の5つに分類した。
弁証 | 治法 | 配穴 |
---|---|---|
肺気虚 | 補益肺気 益気固表 |
太淵、肺兪(原兪配穴法)、気海、合谷 |
脾気虚 | 健脾化痰 益気健脾 |
太白、脾兪(原兪配穴法)、気海、合谷 |
腎気虚 | 補腎納気 養肺定喘 |
太渓、腎兪(原兪配穴法)、気海、合谷、太淵、肺兪(原兪配穴法) |
痰熱 | 清熱散風 滲出利水 |
内庭、合谷、曲地、風池、陰凌泉、豊隆 |
風寒 | 疏風散寒 | 風池、風門、身柱、大椎 |
当院における喘息に対する標治は以下の通りである。全てのタイプに共通して用いる。哮喘の発作は、体質が虚証であっても実の症状である。足三里・尺沢は瀉法として、各々の経絡の走行に従って刺入する。
-足三里・尺沢・彧中・華蓋・身柱
(注)小児の喘息では、鍼が鍉鍼となる。
当院では、全日本鍼灸学会・日本東洋医学会にて、小児はりの効果について発表してきた。全日本鍼灸学会では、小児はりの効果を数値化することで、鍼灸師の患者への説明に役立てていただき、一方で小児はりの術者拡大につながればと考えている。
次に、日本東洋医学会では、小児科医の先生方が、小児はりを患者の保護者にすすめてくださるきっかけとなるデータを示すことができればと考えている。
アレルギーの大項目である保護者の気になる程度と、喘息の小項目である症状の程度では対象人数が少ないためか、中央値で改善がみられたが有意差はなかった。
しかし、治療満足度は、70点以上を満足とし、75%を占めた。
結果より、鍼灸治療によるアレルギーの大項目と、小項目である喘息については、明確な効果は示せなかった。今回は4回の治療で評価したが、喘息を4回の治療で評価するのは難しいとも感じる。我々は臨床上、喘息は徐々に気にならなくなる症状と考えている。アレルゲンやストレスなどにより症状が変化しやすいので、長期間の症状の変化を数値にて評価する必要があると考える。
我々は臨床の中で、小児喘息に鍼灸治療は自信をもって、その効果を伝えられる症状であると考えている。実際、カルテを追跡すると、喘息が対象の小児患者は発作がでなくなり経過も良好だと記録されていた。
1歳、男児
現在は小学校1年生になり、たまに健康維持のために来院されるが、喘息の症状は完全になくなっている。
男性、32歳、船員 肺気虚証
職業が船員であるため、オフの1~2ヵ月集中して治療。また3ヵ月後、1ヵ月集中して治療している。職場環境は非常に悪く、喘息に影響しやすい。
喘息は(毎日吸入)、右肺に空気が入っていない感じがする。肩こり、疲れやすい、アトピー性皮膚炎で全身の皮膚が乾燥する。仕事をするのも辛い時がある。
舌淡、脈沈虚弱
喘息とアトピー性皮膚炎を治療することで、身体が丈夫になり、疲れにくくなった。
呼吸もしやすくなり、仕事に対して前向きになってきた。その変化を見ていた上司から、正社員にどうかと声がかかり、益々やる気がでてきた。人は元気になると、明るく積極的な性格に変身できると実感した症例である。鍼灸治療でそのお手伝いができて幸いである。
3年ほど前から喘息を患っており、空気の悪い職場に勤めていることもあって、一時は仕事中に倒れそうになることもありました。
ホームページでまり鍼灸院さんを見つけ、少しでも喘息が良くなればと思い通院を始めました。その日の体調にあわせて治療を行っていただけるので、喘息以外にも生まれつきで持っているアトピー性皮膚炎やアレルギー、腰痛などの相談にも応じていただいています。
通院する1年程前までは、仕事中にも集中力が続かず、体力的にも周りについていけずに悩んでいた時期がありました。それが今では体調万全で仕事に臨むことができ、人間関係も良くなったので、今では楽しんで仕事ができるまでになりました。この前に派遣先の上司から「君は頑張っているし、よかったらうちの会社に入らないか」と誘いを受けましたが、健康な体をもっているだけでこれ程環境がかわるのか、と驚きました。
アトピー性皮膚炎では、ひどい症状が出なくなり、顔にも赤みが消えました。周りからも、肌がきれいになったねと言われるようになりました。これからも喘息やアトピーの治療を続けていくことに加えて、歳を重ねていくごとに体調も変わっていくと思うので、そのような相談にも乗っていただけたらと思います。
今回は、臨床で使える喘息の知識と治療といった観点でまとめた。喘息で来院された患者様は、寛解までに時間がかかる場合も多い。随伴症状の変化や顔色、爪の色、皮膚の乾燥等、患者様と情報を共有化して観察することが、治療継続につながると感じている。
また、小児の喘息では、4回の喘息に対する治療満足が75%と、満足感・期待が非常に高い。成人の喘息も、症例から鍼灸治療の効果が期待できると感じている。喘息は、薬でのコントロールが必要不可欠である。また、慢性的に長引くものも多い。よって、医療連携が必要な疾患である。東洋医学と西洋医学を上手くマッチングして、患者様にとってベストチョイスができるように、東西両医学の垣根を越えた治療を意識していきたいと考える。これら満足度や症例が、先生方の臨床において、患者様に対しての治療継続の説得にご活用いただけたら幸いである。
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