空気の通り道である気道の粘膜のうち、気管と気管支の粘膜の「刺激に対する過敏症(反応性)」が、アレルギーやウイルス感染など種々の原因によって亢進する疾患です。そのため、健康な人では反応しない程度の刺激にも容易に反応して、突然、発作性に呼吸困難や喘鳴(ヒューヒュー・ゼーゼーといった異常な呼吸音)、咳、痰を引き起こすことになります。喘息患者さんにアレルゲンをはじめとして、上気道感染。気温や湿度の急激な変化、タバコの煙や刺激性ガスの吸入、心理的・精神的ストレスなどいろいろな刺激が加わると、体が過敏に反応します。そうすると、気管支を取り巻いている平滑筋が痙攣を起こし、収縮したり、粘膜がむくんだり、分泌物が増加して気道の内腔が一過性に狭まったりします。気道が狭くなれば空気の通りが悪くなり、この状態では十分な空気を吐くことも吸い込むこともできず、ゼイゼイ、ヒューヒューという喘鳴が聞かれたり、呼吸困難に陥ったりします。また、気道分泌物が増加し咳、痰の原因にもなります。
喘息患者さんの気道過敏性の成因については、古くから遺伝説を含めて様々な検討が行われてきましたが、現在では気道の慢性炎症によることが明らかにされています。
喘息の治療としては薬物治療があります。気管支喘息の基本的な病態が慢性気管支炎症であるという概念が確立されてからは、治療の主体が発作時の気管支拡張薬から長期管理を目的とする吸入ステロイド薬へ移行しています。
非発作時の治療=予防・管理
喘息の原因は伏飲にあります。伏飲のある人は気候の変化、飲食、精神的ストレス、疲労などにより喘息発作を起こしやすくなります。この伏飲は肺・脾・腎のそれぞれの作用が低下し、水分の代謝が障害されると生じます。
喘息の主な症状には呼吸困難があり、呼吸は肺と腎により調節されます。
肺の宣発作用によって体内の汚れた気を排泄し粛降作用によって空気を吸入していますが、その根底には腎の作用が働いています。腎は気化作用の他、呼吸する際に吸った空気を体内に納める納気作用があります。特に深い呼吸の時には腎の作用が重要な役割を果たしており、肺と腎の作用が低下すると呼吸困難が生じます。
喘息発作の状態は、「寒証」「熱証」「気虚証」に大きく分けられます。
風寒、陽虚に分けられる。
カゼの症状がきっかけになることが多いです。風寒邪は皮膚から体内に侵入し衛気を障害します。体内に侵入した風寒邪は伏飲と結びつき、気の流れを阻害して肺の働き(肺の宣発作用)に支障をきたし喘息を起こします。
気の温煦作用の低下により臓器の機能が低下している状態。
陽虚による喘息は主に心・腎への温煦作用が低下して肺に影響することにより生じます。心と腎は協調して体温調節に関与しています。正常な人は心陽が腎陽を温めて温煦作用を促進し水分を蒸化して冷えすぎないようにしていますが、冷たい飲み物の過剰摂取や、もともと陽気が不足している人や慢性心疾患をもっている人が寒冷を受けたりすると、心腎の不調和が起こり呼吸困難や息切れなどの症状が現れます。心臓喘息もこれに含まれます。
風寒の治療には症状によって以下の2パターンにわけられます。
温陽化気
ここでは心腎の働きの低下によるものをお話します。心・腎への温煦作用の低下が肺に影響して生じる喘息の治療は、陽気を補い体を温めるようにします。体が温まると気の流れが活発になり体内の余分な水分が汗や排尿として気化され、肺の働きがスムーズに行えるようになります。
ここでは「痰熱」についてご紹介します。
痰熱とは、痰濁に風熱(ウイルス感染による体温上昇など)が加わったものをいいます。日頃からこってりしたもの、甘味の強いもの、味の濃いものをよく食べる、飲酒、その他ストレスの多い生活により、徐々に体内に痰濁が作られます。痰濁には粘滞性があるために気の流れが悪くなりやすくなります。その痰濁に風熱が加わると熱の炎上性の影響をうけて肺の粛降機能が失調します。つまり通常なら下降すべき肺気が下降できず上へ上がり息がしにくくなって喘息となります。
痰熱…清熱化痰
痰熱は痰濁に風熱が加わったもので、この痰熱は肺を犯しやすく肺気の粛降機能を阻害することは先に述べました。治療では、肺の粛降を正常にするために体の中の過剰な熱を冷まして熱の炎上性を抑制し、また、生痰の源である脾胃の機能を高めて痰が発生しにくくするようにします。すでに発生している余分な水分は汗や尿として気化させます。
肺気虚証、脾気虚証、腎気虚証に分けられます。
気虚とは気の量が不足し、働きが低下した状態をいいます。気には大きく分けて、先天の気(腎気:生まれながら体に備わっている気)・後天の気(脾気:飲食物から得られる栄養物質。生命活動の源)・自然界の清気(肺気:大気中の有益な物質)の3つがあります(図1)。これらの気が不足する原因としてはそれぞれ、生まれながらにが不足している・胃腸の虚弱により消化吸収がうまくできない・呼吸機能の低下などがあります。この状態になると喘息に罹患しやすくなります。
肺気虚証:長期の肺損傷により肺気が不足して宣発・粛降機能が失調したために呼吸困難を起こす。
脾気虚証:脾の弱りにより痰飲が作り出され、これが肺に溜まって痰の多い咳を引き起こす。
腎気虚証:慢性病によって生じた腎気の不足が肺に波及して呼吸困難を起こす。また、肺虚から腎に波及して納気機能が低下し腎虚性の呼吸困難を起こす。
気虚は気の量が不足し、その働きが低下している状態です。各々臓器の不足した気を補い、伏飲を取り除いて体の機能と免疫力を高める治療をしていきます。
肺を補うことで、津液を全身に行き渡らせ、し伏飲の停滞をなくして肺の 宣発・粛降作用を促進します。すると呼吸機能は正常に戻り、自然界の清気(大気中の有益な物質)は取り入れやすくなります。
脾を補うことで脾胃の機能を高め、津液の運化を促し痰飲を作りにくくして喘息の原因である伏飲の発生を抑えます。また、食べ物から得た栄養分で作られる営気を全身に行き渡らせるようにすることで、肺や腎を補って粛降作用や納気作用を促し呼吸機能を改善させます。
腎を補うことで体内の余分な水分を気化して尿を生成します。また、肺の粛降作用と協力して吸入した気を臍下丹田に収められるようにします。腎は脾の働きを促進させる力があり、伏飲の発生自体も抑えるようにします。